「2025年、一番ハマったのはバイブコーディング」──藤井聡太竜王が示した、コードを書かないエンジニアリングの極意

AI

ノイズの多いAIの世界から、未来を読み解くための本質的な「シグナル」をあなたに。

ロジです。

ニュースを目にした瞬間、背筋が伸びるような感覚を覚えました。

あの藤井聡太竜王・名人が、2025年に最も熱中したものとして「バイブコーディング(Vibecoding)」を挙げたのです。将棋という究極の論理ゲームの頂点に立つ彼が、盤面から離れた場所で、AIと共に新たな論理の構築に没頭している。

これは、テック業界にとどまらない、とてつもなく大きなパラダイムシフトの予兆です。

プログラミング言語という「言葉」を知らない彼が、なぜアプリ開発という「行為」を自在に楽しめるのか。そこには、私たちがAI時代を生き抜くための核心的なヒントが隠されています。

この記事は、次のような方へ向けて書きました。

  • 「技術がないから作れない」とアイデアを封印してきた方
  • AIによる開発が、従来のプログラミングとどう違うのか、その本質を知りたい方
  • 天才棋士の思考プロセスと、最新テックの意外な接点に知的好奇心を刺激される方

なぜ、棋界の至宝はコードを書かずに開発できるのか。その思考の裏側を、ロジカルに紐解いていきましょう。

知識ゼロからの「実装」

事の発端は、2025年12月14日にABEMAで配信された「SUNTORY将棋オールスター東西対抗戦2025 決勝戦」での一幕でした。「今年ハマったもの」を問われた藤井竜王は、こう答えたのです。

「生成AIの技術進歩は本当に著しく、そういった知識がなくても、日本語で作ってほしいものを伝えると、良い感じにそういったものができる」

さらりと語っていますが、これは驚くべき発言です。

「そういった知識」、つまりプログラミング言語の文法やライブラリの仕様を全く知らなくても、彼は自分に必要な「便利ツール」を現実に作り出している。

従来、ソフトウェア開発への参入障壁となっていたのは、間違いなく「コーディングスキル」でした。しかし、藤井竜王の実践は、その障壁がもはや存在しないことを証明しています。彼は学習コストを支払うことなく、いきなり「創造」という果実を手にしているのです。

バイブコーディングという「対話」

では、彼が夢中になっている「バイブコーディング」とは、具体的にどのような作業なのでしょうか。

この言葉は、元OpenAIのアンドレイ・カーパシー氏が提唱した概念です。

その本質は、厳密な構文(Syntax)の記述から解放され、自然言語によるAIとの対話(Prompt)と、生成されたものの確認(Verify)というサイクルを回すことにあります。

  1. 指示: 「こんな機能が欲しい」と自然言語で伝える。
  2. 生成: AIが裏側でコードを書き、動くものを作る。
  3. 検証: 動かしてみて、イメージと違う部分を指摘する。

キーボードを叩いてコードを打ち込む時間はゼロ。

代わりに、AIが出してきた成果物を見て、「ここはもっとこう動くべきだ」「この挙動は意図と違う」と修正を繰り返す。カーパシー氏が「Vibe(ノリ、雰囲気)」と表現したのは、このテンポの良いキャッチボールのことでしょう。

【ロジの視点】

藤井竜王の言葉で特に注目すべきは、「初めはうまく動かないことも多く、そこからテストを重ねサイクルを回す」という部分です。彼はAIが一発で正解を出すとは期待していません。不完全なものを提示させ、それを修正していくプロセス自体を楽しんでいる。これこそが、バイブコーディングの真髄です。

なぜ将棋の王者はAIを使いこなせるのか

ここで一つの疑問が浮かびます。なぜ、プログラミング未経験の彼が、エンジニア顔負けの修正サイクルを回せるのでしょうか。

その答えは、彼が日常的に行っている「将棋の研究」と、バイブコーディングの構造が完全に一致している点にあります。

「読み」と「感想戦」の転用

将棋において、彼は常に数手先、数十手先をシミュレーション(読み)し、対局後にはその手順が正しかったのかを検証(感想戦)します。

「もしこう指したら、相手はどう来るか」「この局面での最適解は何か」。この論理的な検証プロセスは、AI開発におけるデバッグと全く同じ脳の使い方を要求します。

コードの中身(How)は分からなくても、出力された結果(What)が論理的に正しいかどうかは判断できる。

動かない原因がどこにあるのか、仮説を立ててAIに次の指示を出す。この「論理的指揮能力」において、彼はずば抜けているのです。エラーログという暗号が読めなくても、挙動という「現象」から原因を特定し、修正する。プログラミング言語の知識がなくとも、論理的思考力さえあれば開発は成立するのです。

KEY SIGNAL:

今後の「作る力」の定義は変わる。必要なのはコードを書く指先の技術ではなく、AIという強大な知能に対して、的確な指示と修正を与え続ける「論理の体力」だ。

まとめ:論理さえあれば、誰でも作り手になれる

藤井竜王のニュースは、私たちに「技術の民主化」が完了したことを告げています。

この記事のポイントをおさらいしましょう。

  • 知識の不要化: 藤井竜王は、専門知識なしで実用的なツールを開発し、その恩恵を享受している。
  • プロセスの変化: 開発は「記述」から、AIとの「対話と修正」へと移行した。
  • スキルの正体: 重要なのは構文知識ではなく、意図した挙動になるまで粘り強く指示を出し続ける論理的思考力。
  • 誰にでも開かれた扉: 将棋の天才でなくとも、論理と言葉さえあれば、今日から誰もがクリエイターになれる。

「自分は文系だから」「プログラミングは難しそうだから」。

そんな言い訳は、もはや意味をなしません。藤井竜王が盤上の戦いから離れてAIエディタに向かうとき、そこにあるのは純粋な「これを作りたい」という意志だけです。

あなたも、まずはAIに話しかけることから始めてみませんか。

そこには、あなたが想像するよりもずっと自由で、刺激的な創造の世界が広がっているはずです。

以上、最後まで記事を読んでいただきありがとうございました。

当メディア「AI Signal Japan」では、

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運営者は、ロジ。博士号(Ph.D.)を取得後も、知的好奇心からデータ分析や統計の世界を探求しています。

アカデミックな視点から、表面的なニュースだけでは分からないAIの「本質」を、ロジカルに紐解いていきます。